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From PARIS:LESAGE 創立100周年記念展

 

最高峰クラスの刺しゅうメゾンの軌跡

 

ルイ・ヴィトン2022春夏コレクションより

 

以前にこのコラムでも取材した、シャネル傘下のアトリエが複数入る総合施設「Le19M」では、刺しゅうの有名メゾンである「LESAGE」の100周年記念の展覧会が行われています。

 

3年前、生前のカール・ラガーフェルドの考案から実現された「Le 19M」。
刺しゅうの「LESAGE」、羽根細工の「LEMARIE」、帽子の「MAISON MICHEL」、金細工の「GOSSENCE」など11の工房が集結しており、それにより職人同士の交流や、デザイナーとのコラボレーションが可能になった新しい形のクリエーションの場です。

 

LESAGE刺しゅうが施された椅子

 

単なる職人が働く工房ではなく、伝統技術を今に引き継ぐという使命を持ったこの施設。地元の若者を対象とした教育プログラムや職業訓練も行っており、先細りが懸念されるファッション業界の成長と活性化に一役買っています。

 

また、若者でなくても事前に申し込みをすれば、一般向けに刺しゅうなどのワークショップも行なっており、これまでの閉ざされたオートクチュールメゾンのイメージを覆すコンセプト。中のオープンカフェでは地元の人たちが気軽にお茶をしにきたりしています。

 

今回もまた、そんな「Le19M」らしい、真髄に迫る素晴らしい展示でした。

 

イヴ・サンローラン1988春夏コレクションより

 

「LESAGE」は、1924年にアルベール・ルサージュによって設立されました。それ以降、世界のオートクチュールとプレタポルテの業界で不動の位置を築いてきています。シャネル、ディオール、サンローランなど数々の一流ブランドと協力して、そのドレスに刺しゅうという美のマジックを吹き込んできました。

 

アリスレッド・バレとのコラボアート「ムクドリの群れ」

 

会場内では、アトリエで働く一流の職人たちが手がけたビーズ刺しゅうやスパンコール刺しゅうが散りばめられた衣装や、インテリア装飾品、アート作品などが8つのセクションに分けられ、その技術的にも芸術的にも優れた作品を目にすることができます。工房で保存されている数千にもおよぶ刺しゅうサンプルや、製作過程のスケッチなど資料のアーカイブは、まさにお宝です。

 

カール・ラガーフェルドの死後、シャネルを受け継いだヴィルジニー・ヴィアールはカールのようなカリスマティックなデザイナーというよりも、チームプレイヤーとして知られています。そのインタビューからもわかるとおり、ファッションデザイナーというよりは職人をまとめる舞台監督としての役割を自認しており、アトリエの職人たちと密接に連携して、彼らの技術を最大限に活かすことを使命としているそう。

 

彼女の“シャネルのDNAを守りながら、新しい視点を加える”というアプローチは、この展示で多く目にすることができました。
例えば、細かい技術の詰まった刺しゅうで覆われた椅子、現代風に解釈され再構築された軽やかなツイード。老舗といわれるメゾンも、このように時代に寄り添って少しずつ変化しているからこそ続くのだと思います。

 

ワークショップで刺しゅう体験する女性たち

 

ちなみにこの刺しゅう工房では、日本人女性の職人が何人か働いており、私の知人もその一人。彼女はフリーランスの刺しゅうアーティストなのですが、パリコレの前になるとこのアトリエに招集され、文字どおり監禁状態で黙々とドレスに刺しゅうをするとのこと。

 

一流の職人が集まる、その美を紡ぎ出す緊迫した空気がなんとも素晴らしく、伝統技能に一生をかけるプロたちの熱意が、メゾンクチュールの土台になっているのでしょう。

 

 

[PROFILE]
KISAYO BOCCARA

パリ在住の帽子職人&通訳コーディネーター。東京藝術大学デザイン科卒業後、渡仏。パリの帽子専門学校を卒業し、C.A.P.職人国家資格を取得。現在は、帽子&アクセサリーのブランドを運営しつつ、日仏をつなぐコーディネーターとして活動。パリ郊外の森近くにて、夫と息子2人の4人暮らし。

 

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