TOP > TOPICS > From PARIS:パリ郊外で見つける秋の芸術
COLUMN
アーティストたちのアトリエ解放デー
食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋……どんな秋もパリという街にはぴったり当てはまりますが、今回は“芸術の秋”に焦点を当ててみようと思います。
集合アトリエで出会った、紙がテーマの作品
モントルイユ市は、パリの東隣。移民が多く一昔前まではあまり治安の良い地区ではなかったのですが、ここ10数年ほどで、狭いパリから場所を求めて移り住んできたアーティストやミュージシャンたちがコミュニティを広げ、現在はすっかり人気の地域になっています。
相変わらず人種のるつぼで雑多な感じ、週末には泥棒市(盗品が並べて売られていることからの由来)も開かれたりしていますが、自由で勢いのある空気が漂う地区。すっかり観光地化し家賃も上がり続けるパリに面白みを感じなくなった若者や、若い家族が増えているのも納得です。
週末の三日間、この市で芸術家たちのアトリエ解放が開催されました。配られるパンフレットの地図には、300人近くのアーティストのアトリエが記されており、参加者は自由に出入りして、制作者と話したり作品を購入したりできます。入り口のカラフルな風船が、ウェルカムの目印。
大きな暖炉と薪が積まれた素敵な画家のアトリエ
私が楽しみにしているのは、作品閲覧はもちろん、その作業場を垣間見られること。時にそこはアーティスト自身の住居であり、こんなところに?こんな人が?こんな物を作っている!という純粋な驚きと喜びが湧いてきます。
太陽のような暖かいマダムが手がけるカラフル彫刻
普段何気なく通っている道ぞいの扉を入ると、中庭の奥にガラス張りの素敵な彫刻アトリエがあったり、狭いアパートを登ると上階に小さなアクセリーを作るお婆さんがいたり。びっしりイーゼルと額が並んだ細い廊下には、油絵の匂いが漂っていたり。暗い部屋で、小動物の骨で奇怪なオブジェを作る人がいたり。
アトリエに並ぶ使いこなされた道具もまたアート
個性を表現している、という陳腐な言葉では収まらない、もうこの人にはこれしかできない、これしか出てこないんだな、といったような作品ばかり。その空間、道具、着ているもの、流す音楽、仕草、そのすべてが、その作家そのままなのです。
アーティストたち全員が、その道だけで食べていっているわけではないでしょう。美術を教えながら自宅で絵を描いているのかもしれないし、資産家のパートナーがいるのかもしれない。別の仕事をリタイヤしてから作り始めた人、週末だけの趣味、ライフワークとして楽しむ人もいます。
中庭で子供に粘土ワークショップを行うアーティスト
彼らとお茶しながら話し、その背景も踏まえつつ生み出されるアートを鑑賞するのも、このイベントならではの楽しみ方。パリの有名美術館で、ツーリストにもまれ話題のアートを観るのも良いですが、身近にもこんなに多くのアートがあふれ、多くの人々が自由に表現していることに無類の喜びを感じます。
東京の芸術大を出てすぐパリに住み始め30年近く、目の前の仕事や子育てに追われ、日本から持ってきた筆やパレットなど画材はいまだ捨てきれず、地下の物置に仕舞われたまま。
幼い頃に通ったお絵かき教室、浪人中通った予備校、大学のアトリエ……この週末の刺激で、忘れていた記憶が蘇ってきてしまい、久々に自分から湧き出る“何か”をアウトプットしたくなりました。
[PROFILE]
KISAYO BOCCARA
パリ在住の帽子職人&通訳コーディネーター。東京藝術大学デザイン科卒業後、渡仏。パリの帽子専門学校を卒業し、C.A.P.職人国家資格を取得。現在は、帽子&アクセサリーのブランドを運営しつつ、日仏をつなぐコーディネーターとして活動。パリ郊外の森近くにて、夫と息子2人の4人暮らし。
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