TOP > TOPICS > From PARIS:Stephen Jones 大回顧展
COLUMN
帽子をアートに高めたオートクチュール界の“フラングレ”
Stephenがヘッドドレスを手がけたDiorのコレクション
ガリエラ宮殿を改装したパリ装飾美術館では現在、帽子界のトップに君臨し続ける現役シャプリエであるステファン・ジョーンズの回顧展が行われています。
独自性を出しつつ、メゾンのイメージを壊さない帽子はお見事(Givenchy)
イギリス人である彼は、幼い頃両親に連れて行ってもらったパリに感銘を受けて、セント・マーチン服飾学校を卒業後、憧れのパリに移り住みます。初めこそ芽が出なかった彼ですが、J.P.ゴルチェやティエリー・ミュグレーに見出され、パリ・オートクチュール界へのデビューを果たしました。
それ以降、ディオール、ルイ・ヴィトン、ジバンジー、コム・デ・ギャルソン、など有名メゾンのコレクションハットを手がけていきます。
ジョン・ガリアーノを更にジョン・ガリアーノらしくする作品
彼の生み出す作品の魅力は、気品ある美しさとユーモア、それを支える伝統的な技術力。
展示会場に流れる映像のなかで彼が、「帽子は、その人のキャラクターを彩る額縁であり、また理想の自分像を作り出すマスクである」と語るとおり、会場内にならぶ170ピースもの作品はすべべて、被る人やブランドの個性を打ち壊す被り物ではなく、本体をさらに美しく引き立たせ、官能やユーモアを添えるものでありました。
彼は、「フラングレ=フランセ(仏人)とアングレ(英国人)の造語」と自らを呼び、その名のとおりパリを愛し、完全にパリのエスプリを身につけた英国人です。
米国は大胆な美しさ、イタリアは構造の美しさ、イギリスは実用性の美しさ、そしてフランスの美しさは、そのセクシーで繊細な味付けだと語ります。展示されている帽子たちは、それぞれまったく別のスタイルですが、完璧で優雅な曲線、レースや羽根の使い方など確かに女性的な官能があふれています。
それらを表現するための技術力も素晴らしいもの。私が自信持ってそう言えるのは、実は私自身パリに住み始めたきっかけが、帽子職人への道を目指したことがきっかけだからです。東京の大学在学中にふとしたきっかけで帽子作りを始めた私は、本格的に学ぼうと世界中の学校を探したところ、当時パリにしか専門学校がなく、仕方なく興味のないこの街にやって来た、というわけです。
幸運なことにその学校を通じて、シャネルやエルメスなど、大手メゾンの帽子を手掛けるアトリエでインターンをさせてもらい、オートクチュールを支える職人たちの手仕事を身近で見ることができました。という理由から、高い技術を見抜く眼はあると自負しています。
何度も型紙を試行する昔ながらの制作過程
ステファン・ジョーンズは、初期の頃、イギリスのアトリエで徹底的にオーダーメイドの帽子作りをしています。英国王室御用達であり、故ダイアナ妃のヘッドドレスも手掛けていました。その後、パリのオートクチュール界で次々と有名メゾンのショーの依頼を受け、華々しい経歴を紡いでこれたのも、この高い技術力があったからこそ。
リサーチに始まり、スケッチ、試作、フォーミング、素材選び、メイキング、装飾と帽子制作における多くの工程も展示されており、派手なデザイナーとしての顔とは別の、昔ながらの職人気質の彼の顔を垣間見ることもできます。
凄味のポートレート、ご本人はもっと柔らかな雰囲気でした
前回のパリ・ファッションウィーク中、展示会「Premiere Classe」で、偶然にもその姿をお見かけすることができました。
仕立ての良いスーツをお洒落に着こなすスキンヘッドのアーティストは、「フラングレ」の呼び名にふさわしい、職人らしい堅実さと魅力あふれる優雅さのオーラをを纏っていました。
1980〜90年代に躍進し、現在のパリ・オートクチュール界を盛り上げてきた大御所デザイナーたちが次々と引退、あるいは逝去する現在、ステファン・ジョーンズは、今なお現役で作品を発表し続けています。
[PROFILE]
KISAYO BOCCARA
パリ在住の帽子職人&通訳コーディネーター。東京藝術大学デザイン科卒業後、渡仏。パリの帽子専門学校を卒業し、C.A.P.職人国家資格を取得。現在は、帽子&アクセサリーのブランドを運営しつつ、日仏をつなぐコーディネーターとして活動。パリ郊外の森近くにて、夫と息子2人の4人暮らし。
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