ミクロモザイク 職人の一族・トラベルサーリ家
 

ウフィッツィ美術館に佇むダ・ヴィンチの像

フィレンツェと言われ思い浮かぶのはアートにファッション、美しい街並み、そして欠かせないのがそれらを築き上げてきた職人さん達です。別名「屋根の無い美術館」とも称されるフィレンツェ のアートに関する歴史は古く14世紀から16世紀にかけてルネッサンス文化が花開きその中でかの有名なレオナルド・ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどが活躍し、建築では当時の流行であった装飾的な建築スタイルであるゴシック様式からシンプルでバランスの良さを重視したスタイルのルネッサンス様式が誕生しました。そんな一時代を彩った芸術が生まれたフィレンツェでは今でも先人たちの技術や意志を受け継ぐ職人さんが多く存在します。

大聖堂をモチーフにしたミクロモザイク 作品

その一つが、中心街から少し離れ落ち着いた雰囲気の場所に工房を構えた「Fratelli Traversari（フラテッリ・トラベルサーリ）」。伝統的なミクロモザイク 作品を作り続ける彼らの歴史は19世紀末に始まり現在ではイタリアに残る数少ない伝統技術を引き継ぐ工房として知られています。

ミクロモザイク とは専用のガラス棒をカットし通常のモザイクアート同様それらを並べ絵画を描いたりペンダントやブローチなのどのジュエリーを製作するガラス工芸です。

入り口の様子

ここ、フラテッリ・トラベルサーリ（以下トラベルサーリ）では伝統を受け継ぐ一族の職人さんたちの手により日々様々な作品が生み出されています。まず工房に入って目にするのは、額に飾られたミクロモザイク 作品の数々。一見すると油画のようにも見えますがよく目をこらすと、小さなガラスにより絶妙なグラデーションが表現されたモザイク画になっています。

こちらの工房では教会や外部から受けた依頼により有名絵画などのモザイク画やジュエリーの制作が行われています。筆や絵の具により描かれた作品を色鮮やかなガラスピースを使用し光や影、複雑な色彩を再現。出来上がる作品は例え同じモチーフであっても見るものに味わい深い印象を与え、その洗練された技術の高さに感銘を受けるでしょう。
また石を切りパズルのように組み合わせたモザイクも制作され、工房はまるでギャラリーのように多くの作品で飾られています。

ミクロモザイク 画によるフィレンツェの街並み

さて、工房内を巡ってみると壁に沿って配置された棚の数々が目にとまります。どうやら棚がパーティションの役割を果たし各エリアを分けているよう。額や作品は勿論のこと、目を引くのはやはりミクモザイクの要であるガラス。壁一面色ごとに細かく分けて保管され、ガラス材料でエリアの一角が埋まってしまうほどの量が所狭しと並べられています。どれもガラス独特の透明感のある色合いで、同色であってもそれぞれに微妙な違いがあるのが分かります。この豊かな色彩があるからこそ、あの絶妙な表現が可能になっているのですね。

作業机

ガラスに囲まれるようにある職人さんの作業机には専用のナイフとピンセットが。数ミリ間隔にガラスをカットし、それを土台に敷いたパテの上へ置いていく繊細な作業のため使用する道具も通常のモザイクとは違うようです。
そんな現在でも古くから伝わる伝統技術を守り、受け継いできたトラベルサーリ。昨今、時代の影響や後継者不足にそのノウハウが失われつつありますが、そうした職人の技術が改めて関心を集めています。その代表的とも言える出来事が、以前フィレンツェで行われたファッションイベント。彼らトラベルサーリを含む職人達がドルチェ＆ガッパーナとコラボレーションを果たし注目されました。このように、古い伝統工芸が様々な形をとり少しずつではありますが次代へ向けた取り組みを行っているのです。

ドルチェ＆ガッパーナとのコラボレーション作品

＊おまけ
日本同様、2月はとても冷えるフィレンツェ。そんな寒い冬の味方がホットチョコレート。バル（カフェ）によって種類は様々、ホワイトチョコレートのみを使用したものからオレンジピールでアレンジを加えたものまで登場。冬になるとそんなホットチョコレートの書かれたメニューがそこかしこに見られます。とろとろ熱々のチョコレートは疲れた体を芯からポカポカにしてくれる、真冬に必須のドリンクなのです。

オレンジホットチョコレート

[PROFILE]
MISA

イタリア在住のフリーランスデザイナー。フィレンツェの美術専門校を卒業後、紳士服店のグラフィックデザイナー兼テキスタイルデザイナーで、今はフリーのグラフィックデザイナー等、活動している。
Instagram @misa_7979