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From Paris:芸術のパリ、芸術の季節

 

パリのアーティストたちの生活背景とビジネス

 

この季節、街中のあちらこちらで展示会やフェアが行われ、アーティストたちが自分の作品を披露するために忙しく動き回っています。今回は、モントルイユのイベント「Porte Ouverte(開かれた扉)」と、コンコルド広場で開催された「Moderne Art Fair」を訪ねてみました。

 

モントルイユはパリの東郊外にある庶民的な街で、昔の工場跡や倉庫を改装したアトリエが多く集まっています。年に一度の「Porte Ouverte」は、そのアトリエを一般に開放するイベント。カラフルな風船が掲げられた扉は、入って観ていってください、のサインです。

 

モントルイユのとあるアトリエ風景

 

道に面した古い鉄扉の奥をのぞくと、そこには絵画、写真、彫刻、映像…と、さまざまなジャンルの作品が展示される各自のアトリエが並んでいます。アーティストたちはみな気さくで、コーヒーやワインを出してくれたり、制作の技法や裏話を語ってくれたり。
なかには、すでにギャラリー契約を結び、インターナショナルに活動している人もいれば、自分の作品が「世に認められる」時を静かに待っている人もいる。華やかな展示の裏側に、地道な制作の時間と情熱が積み重なっているんだと感じられます。

 

油絵具の香りが漂う空間

 

一方、パリの中心コンコルド広場に建てられた仮設テントで開かれた「Moderne Art Fair」はかなりビジネス寄り。

 

ギャラリーのブースがずらりと並び、スーツ姿の来場者たちが作品の値段や作家の将来性をまじめに語り合っています。中にはピカソやA・ウォーホールなど超有名アーティストの作品もちらほら、ゼロがいくつもつくような値札も。アートが単なる「夢」だけでなく「投資商品」でもあることを、ひしひし感じる空間。

 

コンコルド広場に設置されたフェアの会場

 

けれど、そんなアートビジネス世界の中でも、アーティストたちは自分の表現を信じて制作を続けています。そして気になるのは、そんな彼らの生活はどう成り立っているのかということ。

 

フランスは、日本に比べて芸術家に対する理解が深いといわれています。たとえば、国や市が提供するアトリエ支援制度があり、モントルイユのようなエリアでは、元々あった工場や倉庫を改装した共同アトリエを、格安の家賃で借りることができます。家賃高騰のパリでは大変ありがたいシステム。

 

多くの訪問者が訪れる工場後の共同アトリエ

 

アート活動を“職業”として認める「Statut d’Artiste-Auteur」という制度もあり、一定の収入があれば社会保障や年金の対象にもなります。こうした公共の制度が、アーティストたちの「続ける力」を支えているようです。

 

もちろん、こういった支援があるからといって、彼らの生活が楽になるわけではありません。多くのアーティストたちは、まったく違う業種のオフィスに勤めたり、教職についたりして生活を支えつつ、アトリエに通い制作しています。
彼らにとってアートは、生き方そのもの。
たとえ厳しい生活状況にあっても、その手を止めることはないでしょう。

 

無名の作品の横にあった、A・ウォーホールのラフスケッチ

 

 

[PROFILE]
KISAYO BOCCARA

パリ在住の帽子職人&通訳コーディネーター。東京藝術大学デザイン科卒業後、渡仏。パリの帽子専門学校を卒業し、C.A.P.職人国家資格を取得。現在は、帽子&アクセサリーのブランドを運営しつつ、日仏をつなぐコーディネーターとして活動。パリ郊外の森近くにて、夫と息子2人の4人暮らし。

 

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