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From Paris : バッグ展「Sac, Sac, Sac, More Than a Bag」

 

持ちモノ、入れモノ、それ以上の存在?

 

数十人の女性たちのバッグの中身リサーチが面白い

 

この秋からプランタン・オスマン本店(Printemps Haussmann)の6階、アール・デコ様式のクーポルの下では、バッグという日常品を「ただの入れモノ」という枠を超えてその意味を問う展覧会「Sac, Sac, Sac, More Than a Bag」が行われています。

 

クーポルの下に展示されるメッセージバッグ

 

昨年の同じ時期には「Vesthologie」というタイトルで、洋服の基本である”ベスト(上着)”の文化を追う展示を行っていましたが、今回はバッグに焦点を当てそのデザインや歴史、社会性について問いかけています。

 

スマホに財布もカメラも地図も収まってしまう昨今、持ち物はどんどん減り、バッグの必要性は本当にあるのでしょうか?
実際、外ではスマホだけを手にポケットで済ませる若者の姿をよく見かけますし、ハイブランドのバッグを誇示して歩くスタイルも以前より減少しています。

 

アートなインスタレーション

 

私自身なるべく手ぶらでいたい性格で、外出のたびにバッグを持つのが面倒で、普段は両手の空くウエストポーチか大きなポケットのジャケットを身につけています。
それでもやはり、バッグは決してなくならないだろうという思いが、この展示に来て強まりました。

 

グッチやプラダ、ドルガバなどの有名バッグ勢揃い

 

エルメスのケリーやルイ・ヴィトンのモノグラムのトランクといったアイコン的名品から、若手デザイナーやモード学生の作品までがずらっと並ぶこの展示会。「日常と特別」「象徴と機能」といったテーマで構成され、バッグが単なる入れ物の役割を超えて、人間の歴史や社会、ライフスタイルを示すモノであることがよく分かります。
革のなめし技術や金具のディティールの説明もあり、バッグが工芸と産業の狭間にあるという見解も新鮮です。

 

展示の中で特に面白いと思ったのは、24歳の新人クリエーターのバッグ。

 

ロメオ・ガンドンは彼の個性的な記憶をバッグに仕立て、持つこと自体が「物語をまとう」とした一種のアート作品にしています。ビッグブランドの名前やプライスではなく、バッグに込められた思いが人を惹きつけるというコンセプト、スマホ時代の今だからこそより強く響いてくる気がします。

 

考えてみれば、バッグが不要になることは現実的に難しい。たとえ現金やメトロの切符をスマホの中に入れられたとしても、家の鍵や、ハンカチやリップクリームなど細かな物は必要で、すべてをポケットに入れることは難しいし、落す不安もあり。手ぶら派の私でさえ、バッグがあるとやはり安心です。

 

著名人たちとバッグの歴史パネル

 

さらに、バッグのファッションとしての価値は外せません。服と違って、身体に直接つけないからこそ、形や色、素材の自由度が高く、自分のスタイルの遊びや個性を加える格好のアイテムとなります。高級バッグを誇示する若者は減ったとしても、リサイクル素材を使ったものや、面白い造形の小さなバッグで自分らしさを表す人はむしろ増えている様子。

 

エコアイテムとしては、リサイクルレザーや地産の素材を使ったバッグも注目を集めており、持つこと自体が自己表示になる時代。この展示でも、バッグが単に物を運ぶ道具ではなく、社会的メッセージを帯びた存在であることが強調されていました。

 

こうして考えると、持ち物が減った現代だからこそ、バッグは別の意味を付け足しながら、これらも残り続けるのかな、と思いました。

 

 

[PROFILE]
KISAYO BOCCARA

パリ在住の帽子職人&通訳コーディネーター。東京藝術大学デザイン科卒業後、渡仏。パリの帽子専門学校を卒業し、C.A.P.職人国家資格を取得。現在は、帽子&アクセサリーのブランドを運営しつつ、日仏をつなぐコーディネーターとして活動。パリ郊外の森近くにて、夫と息子2人の4人暮らし。

 

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