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From PARIS:「パオロ・ロベルシ写真展」

 

モードフォトグラフの巨匠の実験的作品

 

Yoji Yamamoto(1985) 当時のインパクトが蘇る

 

パリに数多くある美術館や博物館は、そのコレクションや企画もさることながら、館自体の建築も歴史的価値のある素晴らしいところが多いです。ルーブル美術館はフィリップ二世が作った中世のお城でしたし、オルセー美術館は長距離列車のターミナル駅、建築遺産博物館はシャイヨー宮殿、オランジュリーは宮殿の温室でした。

 

今回のレポートは、その中でも格別に美しいルネッサンス様式のガリエラ宮を改築して造られたモード博物館。エッフェル塔を見下ろすイエナにそびえたつ白亜の宮殿です。

 

現在ここでは、モードフォトグラフの巨匠パオロ・ロベルシの回顧展が行われています。

 

暗い館内に差し込む光が美しい

 

イタリア出身の彼は、若いころからそのセンスが認められ、クリスチャン・ディオール、イヴ・サンローラン、ヴァレンチノ、ロメオ・ジリなどコレクションブランドのイメージ写真を数多く手がけます。コム・デ・ギャルソンの川久保玲とは40年ともに仕事をしており、もちろんVOGUEやELLE、EGOISTEなどのファッション誌の表紙にも彼の作品が多く見られます。

 

英国『VOGUE』(2020))多様性モデルの代表Tess

 

決して華美にあらず、控えめな色味とシンプルな構図の中から発せられる強いメッセージ。美しく切り取られた瞬間の儚さ、実験的な光とシルエット。

 

マン・レイ(1980~1978)や、アーウィン・ブルーメン(1897~1969)に強く影響を受けたであろう、光の遊びやシュールレアリズム。それらに感情や香りたつセクシュアリティをプラスしたような作品たちは、暗い館内に浮かび上がるように語りかけてきます。

 

モデルの精神が透けて見えるようなポートレイト

 

特に有名モデルたちのポートレイトは、やわらかいセピア色の、まるで肖像画のよう。撮影は、できる限り少ない人数で作業し、装飾や小道具を使わず、静かな親密な雰囲気の中で行われます。

 

モデルには従来のポーズをやめさせ、写真家はカメラの後ろ側でなくその後ろ側に身を置いて、ファインダーを通さずモデルと直接視線を交わすようにします。モデル自身の参加は彼の画像作成の大事な一部。自然光の下で、長い露光時間をかけて撮影される作品たちは、モデルの存在自体のシンプルな神々しさを引き出すのです。

 

この日は休日だったので、ツーリストでごった返していると思いましたが意外にも余裕があり、そのほとんどは一人客。年配のカップルがちらほらといった感じ。

 

ひそひそ声に耳を澄ますと、どうやら初老男性の方はプロのカメラマンで、妻であろう女性に一枚一枚丁寧に技術を説明していました。

 

プロ用カメラで展示作品を撮る男性、メモをとる若い女性、ゆっくりと作品と見つめるマダム。作品の横には題名も説明も、一切貼っておらず、入り口で手渡された小さなパンフレットで確認するのみ。余計なものはすべて削ぎ落とされている空間。

ルネッサンス様式の支柱から落ちる影も美しい

 

ロベルシの写真の特徴である長時間の露出は、対象物の魂が表面化する時間を与えるという。そして偶然の瞬間が入り込むチャンスを逃さずとらえる。

 

そんな彼の技法を同じように、私も作品の前に立ち、自分の中から湧き出てくる賞賛や詩的な感情をゆっくりと待つ。

 

混雑する美術館が苦手で、基本ひとりで観覧するのが好きな私の肌に合うこんな展覧会。一人客が多いのも納得です。

 

 

[PROFILE]
KISAYO BOCCARA

パリ在住の帽子職人&通訳コーディネーター。東京藝術大学デザイン科卒業後、渡仏。パリの帽子専門学校を卒業し、C.A.P.職人国家資格を取得。現在は、帽子&アクセサリーのブランドを運営しつつ、日仏をつなぐコーディネーターとして活動。パリ郊外の森近くにて、夫と息子2人の4人暮らし。

 

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